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三七  シレネのシモン



 行列は広い街路を進み、古い城門をまがった。この門の前には広場があり、三方へ道が分かれていた。そこでイエズスは再び大きな石につまずき倒れた。十字架はまたかたわらに転び落ちた。主は本当にいたましくも地面に横たわり、もはや、起き上がることはできなかった。そこへちょうどよい身なりをした一群の人々が神殿に行くため通りすがった。かれらは同情して叫んだ。「おおひどいことをする。あの人はかわいそうに死んでしまう。」

 行列を指揮しているファリサイ人らは兵卒に言った。「こんなことでは生かしてこいつを引いては行けんぞ。だれかこの十字架を運ぶ手伝いを探して来い。」そこへちょうどこちらへ真ん中の道をシレネのシモンが歩いて来た。かれは異教徒であった。かれの三人の息子もそこにいた。かれは柴の束を抱えていた。かれは逃げることができなかった。兵卒たちはその身なりからかれが異教徒であることを知った。そしてかれを捕らえ、ガリラヤ人の十字架をになう手伝いに引きずって来た。かれは抵抗した。かれはいやでたまらなかったが、兵卒たちは力ずくで強いた。かれの子供らは大声で泣き出した。この男を知っている二、三の婦人が子供たちをなだめた。シモンは非常な嫌悪を覚えた。イエズスは恐ろしくみじめに変わり果てていた。その着物はきたない物で全くよごれていた。シモンはついに主をお助けせねばならなかった。かれはイエズスのうしろに回り、イエズスにはもはや重みがかからぬよう十字架をになわなければならなかった。そうしてこのいたましい行列は再び動き出した。

 シモンは四十才ほどのがっしりした男であった。かれはかぶりものをかぶっていなかった。かれは短く狭い上衣を着ていた。そして腰には布を巻いていた。そのはきものは皮ひもで足にしっかり結いつけられていた。子供らは色の模様つきの着物を着ていた。その中の二人はやや年かさでルフスとアレキサンデルと言い、あとで弟子たちに加わった。三番目の子供はまだ幼かったが、わたしはその子が少年になってから、ステファノの所にいるのを見た。

 シモンはこうしてイエズスの後についてゆくほどに、間もなく深い感動をうけた。




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